ガウス積分の公式を証明/導出する【微積分】

ガウス積分の公式の導出方法を示します.

  • より一般的な「指数部が多項式である場合」についても説明し,正規分布(ガウス分布)との関係を述べます.
  • ヤコビアンを用いて2重積分の極座標変換をおこないます.
  • ガウス積分は正規分布の期待値や分散を計算する際にも必要となります.

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ガウス積分の公式とは

ガウス積分の公式

ガウス積分(Gaussian integral)とは,以下の積分計算のことである.

(1)   \begin{equation*} \int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2} dx \end{equation*}

ただしx \in {\mathbb R}は実変数,a \in {\mathbb R}^+は正の実定数である.

ガウス積分は頻々現れるため,次の計算結果を含めて,しばしば公式として用いられる.

ガウス積分の公式
次の等式が成り立つ.

(2)   \begin{equation*} \int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2} dx = \sqrt{\frac{\pi}{a}} \end{equation*}

ただしx \in {\mathbb R}は実変数,a \in {\mathbb R}^+は正の実定数である.

ガウス積分の公式(指数部が多項式の場合)

ガウス積分(1)の被積分関数の指数部が,単項式-ax^2ではなく多項式-ax^2+bx+cの場合も,積分が実行可能である.

ガウス積分の公式(指数部が多項式の場合)
次の2つの等式が成り立つ.

(3)   \begin{eqnarray*} \int_{-\infty}^{\infty} e^{-a\left( x - \beta \right)^2} \;dx \;\; &=& \sqrt{\frac{\pi}{a}}\\ &&\\ \int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2+bx+c} \;dx &=& e^{\frac{b^2}{4a} +c } \sqrt{\frac{\pi}{a}} \end{eqnarray*}

ただし,a \in {\mathbb R}^+は正の実定数,\beta,b,c \in {\mathbb R}は任意の実定数である.

式(3)は,適当な操作(平方完成と変数変換)によって式(1)に帰着することができるため,これらの公式については式(1)を証明できれば良い.式(3)から式(1)への変形は,後節「ガウス積分の指数部が2次多項式の場合について」を参照のこと.

ガウス積分の被積分関数のグラフ概形

ガウス積分 (3) の被積分関数 e^{-a\left( x - \beta \right)^2} および e^{-ax^2+bx+c} のグラフ概形を以下に示す.

これらの「釣り鐘型曲線(bell curve)」は,確率・統計における正規分布(ガウス分布)の確率密度関数

(4)   \begin{equation*} f_{X}(x) = \frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma} \exp{\left\{ -\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2} \right\}}  \end{equation*}

のグラフとして頻々目にするものである.

なお,ガウス積分と正規分布の関連については,後節「ガウス積分と正規分布(ガウス分布)の確率密度関数との関係」を参照のこと.

また,正規分布の詳細については,以下の記事を参照のこと.

正規分布(ガウス分布)とは何か【確率論】

2018年9月10日

ヤコビアンと極座標変換

ガウス積分(1)を実際に計算するためには,2次元直交座標系(x,y)上の積分を,2次元極座標系(r,\theta)上の積分に変換する必要が生じる.このような,多変数関数の積分(多重積分)の変数変換をする際に必要になるのがヤコビアン(ヤコビ行列式)である.

ヤコビアンと2重積分の極座標変換については,以下の記事を参照のこと.

ヤコビアンの定義・意味・例題(2重積分の極座標変換・変数変換)【微積分】

2018年8月30日

ガウス積分の公式の証明/導出(極座標変換を用いたガウス積分の計算方法)

Step 1. ガウス積分の2乗から2重積分への変形

ガウス積分の値を計算するには,まず式(1)の2乗

(5)   \begin{equation*} \left(\int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2} dx\right)^2 \end{equation*}

を計算してその値を求め,その後に平方根をとればよい.2乗することによって変数の極座標変換が可能になり,ガウス積分を実行できる.

変数xとは別に,もう一つ別の変数yを用意し,式(5)を

xに関するガウス積分」と「yに関するガウス積分」の積

に分解すると,式(5)は以下のような2重積分に書き換えることができる:

(6)   \begin{eqnarray*} \left(\int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2} dx\right)^2 &=&\left(\int_{-\infty}^{\infty}e^{-ax^2} dx\right) \cdot \left(\int_{-\infty}^{\infty} e^{-ay^2} dy\right) \\ &=& \int_{-\infty}^{\infty} \int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2}\cdot e^{-ay^2} dxdy \\ &=& \int_{-\infty}^{\infty} \int_{-\infty}^{\infty} e^{-a(x^2+y^2)} dxdy \end{eqnarray*}

Step 2. 直交座標系から極座標系への変換(極座標変換)

次に,式(6)で得た直交座標系(x,y)での2重積分を,極座標系(r,\theta)での2重積分に変換する.

変数変換

直交座標系(x,y)と極座標系(r,\theta)の関係は,次式で定義される:

(7)   \begin{equation*} \left\{ \begin{array}{ccc} x &=& r \cos \theta \\ y &=& r \sin \theta \end{array} \right \end{equation*}

なお,式(6)の被積分関数の指数部について,

(8)   \begin{eqnarray*} x^2+y^2 &=& r^2(\cos^2 \theta + \sin^2 \theta) \\ &=& r^2 \end{eqnarray*}

となることに注意せよ.

変数の定義域と積分範囲

式(6)の積分範囲は,直交座標表示された2次元平面全体

(9)   \begin{equation*} \{(x,y)|-\infty< x < \infty ,\; -\infty<y< \infty \}={\mathbb R}^2 \end{equation*}

である.これに対して,極座標表示(r,\theta)された2次元平面{\mathbb R}^2

(10)   \begin{equation*} \{(r,\theta)| 0 \le x < \infty ,\; 0\le \theta < 2\pi \}={\mathbb R}^2 \end{equation*}

である.

微小面積の変換

微小面積dxdyについては,ヤコビアン|J|に注意して

(11)   \begin{eqnarray*} dxdy &=& |J| drd\theta\\ &=& \left| \begin{array}{cc} \frac{\partial x}{\partial r} & \frac{\partial y}{\partial r} \\ \frac{\partial x}{\partial \theta} & \frac{\partial y}{\partial \theta} \end{array} \right| drd\theta \\ &=& \left| \begin{array}{cc} \cos \theta & \sin \theta \\ -r \sin \theta & r \cos \theta \end{array} \right| drd\theta \\ &=& (r \cos^2 \theta + r \sin^2 \theta ) drd\theta \\ &=& r drd\theta \end{eqnarray*}

と変換される.

ヤコビアン(ヤコビ行列式)の詳細については,以下の記事を参照のこと.

ヤコビアンの定義・意味・例題(2重積分の極座標変換・変数変換)【微積分】

2018年8月30日

Step 3. ガウス積分の実行

Step 2. で示した極座標変換に注意して,式(6)の2重積分は以下のように実行することができる:

(12)   \begin{eqnarray*} \int_{-\infty}^{\infty} \int_{-\infty}^{\infty} e^{-a(x^2+y^2)} dxdy &=& \int_{0}^{\infty} \int_{0}^{2\pi} e^{-ar^2} |J| drd\theta \\ &=& \int_{0}^{2\pi} \left( \int_{0}^{\infty} re^{-ar^2} dr \right) d\theta \\ &=& \left[ -\frac{1}{2a} e^{-ar^2} \right]_{0}^{\infty} \times \int_{0}^{2\pi} \; d\theta \\ &=& \frac{1}{2a} \int_{0}^{2\pi} \; d\theta \\ &=& \frac{1}{2a} \big[\; \theta \; \big]_{0}^{2\pi} \\ &=& \frac{2\pi}{2a} \\ &=& \frac{\pi}{a} \end{eqnarray*}

結局,

(13)   \begin{equation*} \left(\int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2} dx\right)^2 = \frac{\pi}{a} \end{equation*}

を得る.この両辺で平方根をとることにより,ガウス積分の値が

(14)   \begin{equation*} \int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2} dx = \sqrt{\frac{\pi}{a}} \end{equation*}

のように求まる.

ガウス積分の指数部が2次多項式の場合について

指数部が単項式の場合への帰着

ガウス積分(1)の被積分関数の指数部が,単項式-ax^2ではなく多項式-ax^2+bx+cの場合も,適当な操作(平方完成と変数変換)によって式(1)に帰着することができる.

a \in {\mathbb R}^+を正の実定数,b,c \in {\mathbb R}を任意の実定数として,

(15)   \begin{equation*} \int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2+bx+c} dx \end{equation*}

を計算する.式(15)の被積分関数の指数部を

(16)   \begin{eqnarray*} -ax^2+bx+c &=&-a\left( x^2-\frac{b}{a}x + \frac{b^2}{4a^2} \right)+ \frac{b^2}{4a} +c\\ &=&-a\left( x -\frac{b}{2a} \right)^2+ \frac{b^2}{4a} +c\\ &=&-a\left( x - \beta \right)^2 + \gamma ,\\ \text{where}&&\beta:=\frac{b}{2a},\;\gamma:=\frac{b^2}{4a} +c \end{eqnarray*}

のように平方完成すると,式(15)は

(17)   \begin{eqnarray*} \int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2+bx+c} dx &=&\int_{-\infty}^{\infty} e^{-a\left( x - \beta \right)^2 + \gamma } dx \\ &=&\int_{-\infty}^{\infty} e^{-a\left( x - \beta \right)^2}\cdot e^{\gamma } \; dx \\ &=& e^{\gamma } \int_{-\infty}^{\infty} e^{-a\left( x - \beta \right)^2} dx \\ &=& e^{\gamma } \int_{-\infty}^{\infty} e^{-az^2} dz \end{eqnarray*}

となり,ガウス積分(1)に帰着する.ただし,上式4行目で変数変換

(18)   \begin{equation*} z:=x - \beta\quad({-\infty}<z<{\infty}) \end{equation*}

をおこなった.公式(2)を認めれば,式(17)に式(16)の\gammaを戻して,

(19)   \begin{equation*} \int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2+bx+c} dx = e^{\frac{b^2}{4a} +c } \sqrt{\frac{\pi}{a}} \end{equation*}

を得る.

また,上記の計算過程から明らかな通り,平方完成で\gamma=0となるときは

(20)   \begin{equation*} \int_{-\infty}^{\infty} e^{-a\left( x - \beta \right)^2} dx = \sqrt{\frac{\pi}{a}} \end{equation*}

である.

ガウス積分と正規分布(ガウス分布)の確率密度関数との関係 *

前節の式(20)は,ガウス分布(正規分布)の確率密度関数

(21)   \begin{equation*} f_X(x)=C\cdot \exp\left\{-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}\right\} \end{equation*}

の係数C

(22)   \begin{equation*} C=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma} \end{equation*}

であることを説明する.式(21)の指数関数を積分すると,式(20)より

(23)   \begin{equation*} \int_{-\infty}^{\infty} \exp\left\{-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}\right\} dx = \sqrt{\frac{\pi}{ \frac{1}{2\sigma^2} }} = \sqrt{2\pi}\sigma \end{equation*}

である.他方,全確率が1であるとの確率論の公理より,確率密度関数f_X(x)の全積分について

(24)   \begin{equation*} \int_{-\infty}^{\infty} f_X(x) dx = 1 \end{equation*}

が成り立つような係数としてC=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}が定まる.

また,正規分布の期待値(平均)や分散を計算する際にも,ガウス積分は利用される.これらの計算の詳細については,以下の記事を参照のこと.

正規分布の計算:期待値(平均),分散,標準偏差の求め方【確率論】

2017年2月17日

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