内積(ベクトルの内積)とは?定義・公式・計算例・意味・英語訳【線形代数】

ベクトルの内積には2種類の定義の仕方があります.ひとつは長さと交角による定義で,もうひとつはベクトルの成分の積和による定義です.内積は2次元平面上のベクトルについて導入され,後者の定義から多次元ベクトルの内積へと拡張されます.内積が定義されると,空間にノルムを導入できます.ベクトルの内積は,行列の積とも関係しています.

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準備

ベクトルの長さ

向きを持たない量であるスカラー(scalar)と区別するために,長さと向きを持つ量であるベクトル(vector)は,ボールド体で\bf aなどと表記される.

ベクトル\bf aの始点(initial point)から終点(terminal point)までの線分の長さは,ベクトル\bf a長さ(length),大きさ(magnitude),または絶対値(absolute value)といい,|| {\bf a} ||| {\bf a} |a などで表す.

列ベクトルと行ベクトル

n個の成分(components)からなるベクトルには,次の2つの表記法がある.成分を

(1)   \begin{equation*} \left( \begin{array}{c} a_0\\ a_1\\ \vdots \\ a_i \\ \vdots \\ a_{n-1} \end{array} \right) \end{equation*}

のように,縦に書き並べるとき,これをn次元列ベクトルまたは縦ベクトル(n-dimensional column vector)という.n次元列ベクトルはn\times 1行列(n\times 1 matrix)と同一視できる.また,成分を

(2)   \begin{equation*} \left( a_0, a_1,...,a_i,...,a_{n-1} \right) \end{equation*}

のように,横に書き並べるとき,これをn次元行ベクトルまたは横ベクトル(n-dimensional row vector)という.n次元行ベクトルは1\times n行列と同一視できる.

ベクトルの転置(transpose of a vector)

ベクトルや行列の列と行を入れ替えることを,ベクトルや行列の転置(transpose)という.

ベクトル\bf a転置ベクトル(transposed vector)は \;^t{\bf a}{\bf a}^{\rm T}{\bf a}^{\top}などで表す.

(例)

(3)   \begin{equation*} {\bf a} = \left( \begin{array}{c} a_0\\ a_1\\ \vdots \\ a_i \\ \vdots \\ a_{n-1} \end{array} \right) \end{equation*}

のとき

(4)   \begin{equation*} ${\bf a}^{\top}$ = \left( a_0, a_1,...,a_i,...,a_{n-1} \right) \end{equation*}

となる.

内積の定義 (definition of inner product)

2つのベクトルの長さと,それらのなす角が与えられたとき,それらのベクトルの内積(inner product)は,以下のように定義される.ベクトルが定義される空間やベクトルの表示により,いくつかの異なる定義の仕方がある.

なお,複素ベクトル(complex vectors)の内積を定義するためには,複素共役(complex conjugate)またはエルミート共役(Hermitian conjugate)なベクトルを用いる必要がある.

本節では,実ベクトル(real vectors)に関する内積の定義を与える.

内積の定義(1)長さと交角に基づく内積

内積の定義(1)

平面上の2つの実ベクトル\bf a\bf b について,それらの長さ| {\bf a}||{\bf b}| と,それらのなす角\theta が与えられているとする.

このとき,ベクトル\bf a\bf b の内積\bf a \cdot b

(5)   \begin{equation*} {\bf a \cdot b} := | {\bf a}|\;|{\bf b}|\; \cos \theta \end{equation*}

で定義される.

ベクトル\bf a\bf b の内積は,

(6)   \begin{equation*} ({\bf a}, {\bf b}) \end{equation*}

あるいは

(7)   \begin{equation*} \langle {\bf a}, {\bf b}\rangle \end{equation*}

のように表記されることもある.

内積の定義(2-1)2次元実ベクトルの内積

内積の定義(1)は,ベクトルを平面上の有向線分とみなし,それらの長さと交角を用いた幾何学的な定義であった.

これに対して,2つの2次元実ベクトル(2-dimentional real vectors)について,それぞれのベクトルの成分(components)が与えられたときには,それらのベクトルの内積を,以下のように代数的に定義できる.

内積の定義(2-1)

2つの2次元実ベクトル\bf a\bf b の成分がそれぞれ

(8)   \begin{equation*} {\bf a} = \left( \begin{array}{c} a_0\\ a_1\\ \end{array} \right), \quad {\bf b} = \left( \begin{array}{c} b_0\\ b_1\\ \end{array} \right) \end{equation*}

のように与えられたとする.

このとき,ベクトル\bf a\bf b の内積\bf a \cdot b

(9)   \begin{equation*} {\bf a \cdot b} := a_0 b_0 + a_1 b_1 \end{equation*}

で定義される.また,行列の計算規則との整合性を保ち,後に述べる外積(outer product)との区別を明確にするため,左側のベクトルを行ベクトル,右側のベクトルを列ベクトルで表記し,内積を

(10)   \begin{equation*} ${\bf a}^{\top}$ \cdot {\bf b} = \left( a_0, a_1\right) \left( \begin{array}{c} b_0\\ b_1\\ \end{array} \right) := a_0 b_0 + a_1 b_1 \end{equation*}

と表記する場合もある.

定義(2-1)から定義(1)を導く

内積の定義(1)と定義(2-1)が一致することは,余弦定理を用いて次のように示すことができる.

2つの2次元実ベクトル\bf a\bf b の長さをそれぞれabとし,それらの交角を\thetaとする.ベクトル\bf a\bf b は,適当な2次元座標系の元で

(11)   \begin{equation*} {\bf a} = \left( \begin{array}{c} a_0\\ a_1\\ \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} a \cos \phi\\ a \sin \phi\\ \end{array} \right), \quad {\bf b} = \left( \begin{array}{c} b_0\\ b_1\\ \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} b \cos (\theta + \phi)\\ b \sin (\theta + \phi) \\ \end{array} \right) \end{equation*}

と書くことができる.

内積の定義(2-1)の式(9)に式(11)を代入すると,

(12)   \begin{eqnarray*} {\bf a}^{\top}$ \cdot {\bf b} &=& \left( a \cos \phi, a \sin \phi\right) \left( \begin{array}{c} b \cos (\theta + \phi)\\ b \sin (\theta + \phi)\\ \end{array} \right)\\ &=& a \cos \phi \cdot b \cos (\theta + \phi) + a \sin \phi \cdot b \sin (\theta + \phi)\\ &=& ab \left\{ \cos \phi \cos (\theta + \phi) + \sin \phi \sin (\theta + \phi) \right\}\\ &=& ab \cos (\theta + \phi -\phi) \\ &=& ab \cos \theta \end{eqnarray*}

よって式(5)を得る.

あるいは,次のように考えるとより直感的に把握しやすいかもしれない.

2つの2次元実ベクトル\bf a\bf b の長さをそれぞれabとし,それらの交角を\thetaとする.ベクトル{\bf a}=(a,0)^{\top}となるように2次元直交座標系を取る.このときabの交角は\thetaなので{\bf b}=(b \cos \theta, b \sin \theta)^{\top} となる.したがって,{\bf a}^{\top} \cdot {\bf b} = a \cdot b \cos \theta + 0 \cdot b \sin \theta = ab \cos \theta を得る.これは,式(11)のabに対して,角度\phiの回転行列によって,ベクトルまたは座標系を回転させることと同じである.

内積の定義(2-2)n次元実ベクトルの内積

内積の定義(2-1)は,2つのベクトルを2次元実ベクトルであるとしたが,自然な拡張として,一般のn次元実ベクトルの内積を次のように定義できる.

内積の定義(2-2)

2つの実ベクトル\bf a\bf b の成分がそれぞれ

(13)   \begin{equation*} {\bf a} = \left( \begin{array}{c} a_0\\ a_1\\ \vdots \\ a_i \\ \vdots \\ a_{n-1} \end{array} \right), \quad {\bf b} = \left( \begin{array}{c} b_0\\ b_1\\ \vdots \\ b_i \\ \vdots \\ b_{n-1} \end{array} \right) \end{equation*}

のように与えられたとする.

このとき,ベクトル\bf a\bf b の内積は

(14)   \begin{eqnarray*} {\bf a } \cdot {\bf b} &:=& a_0 b_0 + a_1 b_1 + \cdots + a_i b_i + \cdots + a_{n-1} b_{n-1} \\ &=& \sum_{i=0}^{n-1} a_i b_i \\ \end{eqnarray*}

あるいは

(15)   \begin{eqnarray*} {\bf a}^{\top} \cdot {\bf b} &=& \left( a_0, a_1,...,a_i,...,a_{n-1} \right) \left( \begin{array}{c} b_0\\ b_1\\ \vdots \\ b_i \\ \vdots \\ b_{n-1} \end{array} \right)\\ &:=& a_0 b_0 + a_1 b_1 + \cdots + a_i b_i + \cdots + a_{n-1} b_{n-1} \\ &=& \sum_{i=0}^{n-1} a_i b_i \\ \end{eqnarray*}

で定義される.

内積と外積(outer product),クロス積(cross product)

内積と共に紹介されることの多いベクトルの積として,外積(outer product)とクロス積(cross product)がある.

ベクトルの外積(outer product)

ベクトルの内積(inner product)が2つのn次元ベクトルからスカラー(scalar)をつくる二項演算であったのに対し,ベクトルの外積(outer product)は,n次元ベクトルとm次元ベクトルからn\times m行列をつくる二項演算である.両者における行ベクトルと列ベクトルの使い方に注意せよ.

外積の定義

n次元ベクトル\bf a,およびm次元ベクトル\bf b の成分がそれぞれ

(16)   \begin{equation*} {\bf a} = \left( \begin{array}{c} a_0\\ a_1\\ \vdots \\ a_i \\ \vdots \\ a_{n-1} \end{array} \right), \quad {\bf b} = \left( \begin{array}{c} b_0\\ b_1\\ \vdots \\ b_j \\ \vdots \\ b_{m-1} \end{array} \right) \end{equation*}

のように与えられたとする.

このとき,ベクトル\bf a\bf b の外積は

(17)   \begin{eqnarray*} ${\bf a}$ \otimes {\bf b} = ${\bf a}$ {\bf b}^{\top} &=& \left( \begin{array}{c} a_0\\ a_1\\ \vdots \\ a_i \\ \vdots \\ a_{n-1} \end{array} \right) \left( b_0, b_1,...,b_j,...,b_{m-1} \right)\\ &:=& \left( \begin{array}{cccccc} a_0 b_0 & a_0 b_1 &...&a_0b_j&...&a_0b_{m-1}\\ a_1 b_0 & a_1 b_1 &...&a_1b_j&...&a_1b_{m-1}\\ \vdots & \vdots & &\vdots& &\vdots\\ a_i b_0 & a_i b_1 &...&a_ib_j&...&a_ib_{m-1}\\ \vdots & \vdots & &\vdots& &\vdots\\ a_{n-1}b_0 & a_{n-1} b_1 &...&a_{n-1}b_j&...&a_{n-1}b_{m-1}\\ \end{array} \right) \end{eqnarray*}

で定義される.

ベクトルのクロス積(cross product) *

ベクトルのクロス積の定義

ベクトルのクロス積は,2つの3次元ベクトルが張る平面に垂直な3次元ベクトルをつくる二項演算である.クロス積はベクトル積(vector product)とも呼ばれる.ベクトルのクロス積は,古典力学や電磁気学でも頻出する.日本語文献では,このクロス積を「外積」と呼ぶものも多いので,注意が必要である.

クロス積の定義

3次元ベクトル\bf a\bf b の成分がそれぞれ

(18)   \begin{equation*} {\bf a} = \left( \begin{array}{c} a_0\\ a_1\\ a_2 \\ \end{array} \right), \quad {\bf b} = \left( \begin{array}{c} b_0\\ b_1\\ b_2 \\ \end{array} \right) \end{equation*}

のように与えられたとする.

このとき,ベクトル\bf a\bf b のクロス積は

(19)   \begin{eqnarray*} {\bf a} \times {\bf b} &=& \left( \begin{array}{c} a_1 b_2 - a_2 b_1 \\ a_2 b_0 - a_0 b_2 \\ a_0 b_1 - a_1 b_0 \\ \end{array} \right) \end{eqnarray*}

で定義される.

ベクトルのクロス積の幾何学的意味:「向き付き平行四辺形」

クロス積{\bf a} \times {\bf b}には,次のような幾何学的意味がある:

  • クロス積{\bf a} \times {\bf b}は,ベクトル\bf a\bf bが張る平面に垂直なベクトルであり,その向きは{\bf a}から{\bf b}の方向へ回すときに右ねじが進む向きである.したがって{\bf b} \times {\bf a}は,{\bf a} \times {\bf b}の逆向きのベクトル({\bf b} \times {\bf a}=-{\bf a} \times {\bf b})となる(「向き付き」).
  • {\bf a} \times {\bf b}は,ベクトル\bf a\bf bが張る平面に垂直なベクトルであり,その大きさは\bf a\bf bを隣り合う二辺とする平行四辺形の大きさ

    (20)   \begin{equation*} |{\bf a} \times {\bf b}| = |{\bf a}|\; |{\bf b}| \sin \theta \end{equation*}

    となる.

  • これらより,{\bf a} \times {\bf b}\bf a\bf bを隣り合う二辺とする平行四辺形に対応付けたとすると,(-{\bf a}) \times {\bf b}{\bf a} \times (-{\bf b})はその鏡像対称(線対称)な平行四辺形であり,クロス積の向きで平行四辺形の表裏を「ラベリング」できる(向き付き平行四辺形).

内積の計算の具体例・内積の求め方の例

2次元ベクトルの内積の計算例(1)

2つの2次元実ベクトル\bf a\bf b の長さがそれぞれ3,4,\bf a\bf bのなす角が\pi/6であるとする.このとき,ベクトル\bf a\bf b の内積{\bf a} \cdot {\bf b} は,

(21)   \begin{eqnarray*} {\bf a} \cdot {\bf b} &=& 3\cdot 4\cdot \cos \frac{\pi}{6} \\ &=& 3\cdot 4\cdot \frac12 = 6 \end{eqnarray*}

2次元ベクトルの内積の計算例(2)

2つの2次元実ベクトル\bf a\bf b の成分がそれぞれ

(22)   \begin{equation*} {\bf a} = \left( \begin{array}{c} 1\\ 2\\ \end{array} \right), \quad {\bf b} = \left( \begin{array}{c} 3\\ 4\\ \end{array} \right) \end{equation*}

のように与えられたとする.このとき,ベクトル\bf a\bf b の内積{\bf a}^{\top} \cdot {\bf b} は,

(23)   \begin{eqnarray*} {\bf a}^{\top} \cdot {\bf b} &=& \left( 1, 2\right) \left( \begin{array}{c} 3\\ 4\\ \end{array} \right)\\ &=& 1 \cdot 3 + 2 \cdot 4 \\ &=&3+8 = 11 \end{eqnarray*}

3次元ベクトルの内積の計算例

2つの3次元実ベクトル\bf a\bf b の成分がそれぞれ

(24)   \begin{equation*} {\bf a} = \left( \begin{array}{c} 2\\ 4\\ 6 \end{array} \right), \quad {\bf b} = \left( \begin{array}{c} 3\\ 5\\ 7 \end{array} \right) \end{equation*}

のように与えられたとする.このとき,ベクトル\bf a\bf b の内積{\bf a}^{\top} \cdot {\bf b} は,

(25)   \begin{eqnarray*} {\bf a}^{\top} \cdot {\bf b} &=& \left( 2, 4, 6\right) \left( \begin{array}{c} 3\\ 5\\ 7 \end{array} \right)\\ &=& 2 \cdot 3 + 4 \cdot 5 + 6 \cdot 7 \\ &=&6+20 +42 = 68 \end{eqnarray*}

4次元ベクトルの内積の計算例

2つの4次元実ベクトル\bf a\bf b の成分がそれぞれ

(26)   \begin{equation*} {\bf a} = \left( \begin{array}{c} 2\\ 4\\ 6\\ 8 \end{array} \right), \quad {\bf b} = \left( \begin{array}{c} 3\\ 5\\ 7\\ 9 \end{array} \right) \end{equation*}

のように与えられたとする.このとき,ベクトル\bf a\bf b の内積{\bf a}^{\top} \cdot {\bf b} は,

(27)   \begin{eqnarray*} {\bf a}^{\top} \cdot {\bf b} &=& \left( 2, 4, 6, 8\right) \left( \begin{array}{c} 3\\ 5\\ 7\\ 9 \end{array} \right)\\ &=& 2 \cdot 3 + 4 \cdot 5 + 6 \cdot 7 + 8\cdot 9 \\ &=&6+20 +42 + 72 = 140 \end{eqnarray*}

内積とノルム(norm)

n次元実ベクトル\bf xについて,そのベクトル自身との内積の平方根

(28)   \begin{equation*} ||{\bf x}|| := \sqrt{{\bf x} \cdot {\bf x}} \end{equation*}

で定義される量||{\bf x}||をベクトル\bf xノルム(norm)という.

\bf x=(x_1,...,x_n)^{\top}としたとき,\bf xのノルムは

(29)   \begin{eqnarray*} ||{\bf x}|| &:=& \sqrt{{\bf x} \cdot {\bf x}}\\ &=& \sqrt{x_1^2 + \cdots + x_n^2} \end{eqnarray*}

となる.すなわち\bf xのノルムはベクトル\bf xの長さと一致する.

ノルムは次のような性質を満たす.

ノルムの性質

  1. ||{\bf x}|| \ge 0:非負性
  2. ||{\bf x}|| = 0 \iff {\bf x} = {\bf 0}
  3. ||\alpha{\bf x}|| = |\alpha|\;||{\bf x}||}:スカラー倍
  4. ||{\bf x}+{\bf y}|| \le ||{\bf x}||+||{\bf y}||:三角不等式(triangle inequality)(絶対値・ノルムに関する劣加法性(subadditivity))

逆に,上のノルムの性質をノルムの定義とすることで,ノルムの概念は一般化される.ノルム概念が一般化された下では,定義式(28)は,数あるノルムの中のひとつでしかなくなる.このとき,式(28)で与えられるノルムは特にユークリッドノルム(Euclidean norm)あるいはL^2ノルムと呼ばれる.

内積を用いたベクトルの交角の求め方

内積の定義(1)を用いて,2つのベクトルの交角を求めることができる.定義より,平面上の2つの実ベクトル\bf a\bf b の内積は

(30)   \begin{equation*} {\bf a \cdot b} := | {\bf a}|\;|{\bf b}|\; \cos \theta \end{equation*}

だから,

(31)   \begin{equation*} \cos \theta = \frac{ {\bf a \cdot b}}{| {\bf a}|\;|{\bf b}|} \end{equation*}

によって交角\theta\;(0\le \theta \le \pi)を得る.

(例)2つの2次元実ベクトル\bf a\bf b の成分がそれぞれ

(32)   \begin{equation*} {\bf a} = \left( \begin{array}{c} \sqrt{3}\\ 0\\ \end{array} \right), \quad {\bf b} = \left( \begin{array}{c} \sqrt{3}\\ 1\\ \end{array} \right) \end{equation*}

のように与えられたとする.このとき,|{\bf a}||{\bf b}| は,式(29)より,

(33)   \begin{eqnarray*} |{\bf a}| &=& \sqrt{{\bf a}^{\top}\cdot {\bf a}}\\ &=& \sqrt{ \left(\sqrt{3},0\right) \left( \begin{array}{c} \sqrt{3}\\ 0\\ \end{array} \right) }\\ &=& \sqrt{\sqrt{3}\cdot \sqrt{3} + 0\cdot 0} = \sqrt{3} \end{eqnarray*}

(34)   \begin{eqnarray*} |{\bf b}| &=& \sqrt{{\bf b}^{\top}\cdot {\bf b}}\\ &=& \sqrt{ \left(\sqrt{3},1\right) \left( \begin{array}{c} \sqrt{3}\\ 1\\ \end{array} \right) }\\ &=& \sqrt{\sqrt{3}\cdot \sqrt{3} + 1\cdot 1} = 2 \end{eqnarray*}

また,{\bf a}{\bf b}の内積は,

(35)   \begin{eqnarray*} {\bf a}^{\top}\cdot {\bf b}} &=& \left(\sqrt{3},0\right) \left( \begin{array}{c} \sqrt{3}\\ 1\\ \end{array} \right)\\ &=& \sqrt{3}\cdot \sqrt{3} + 0\cdot 1 = 3 \end{eqnarray*}

である.これらより,ベクトル{\bf a}{\bf b}のなす角\theta\;(0\le \theta \le \pi)は,

(36)   \begin{eqnarray*} \cos \theta &=& \frac{ {\bf a \cdot b}}{| {\bf a}|\;|{\bf b}|}\\ &=& \frac{ 3 }{2 \sqrt{3} } = \frac{\sqrt{3}}{2} \\ \end{eqnarray*}

より

(37)   \begin{equation*} \theta = \arccos \frac{\sqrt{3}}{2} = \frac{\pi}{6} \quad (0\le \theta \le \pi) \end{equation*}

となる.

内積を用いたベクトルの直交条件(平行条件はクロス積を用いる)

式(31)を用いると,2つのベクトルの直交条件を定めることができる.

0\le \theta \le \piの下で,交角が\theta = \pi/2 となるとき,2つのベクトル{\bf a}{\bf b}は直交する.すなわち直交条件は

(38)   \begin{equation*} \theta = \pi/2 \iff \cos \theta = 0 \quad (0\le \theta \le \pi) \end{equation*}

なので,式(31)と合わせて

(39)   \begin{equation*} \cos \theta = \frac{ {\bf a \cdot b}}{| {\bf a}|\;|{\bf b}|} = 0. \end{equation*}

すなわち

(40)   \begin{equation*} {\bf a \cdot b}= 0 \end{equation*}

となれば,2つのベクトル{\bf a}{\bf b}は直交する.

(例)次の2つの3次元実ベクトル

(41)   \begin{equation*} {\bf a} = \left( \begin{array}{c} 0\\ -2\\ 1 \end{array} \right), \quad {\bf b} = \left( \begin{array}{c} 3\\ 2\\ 4 \end{array} \right) \end{equation*}

は直交する.なぜなら,

(42)   \begin{eqnarray*} {\bf a}^{\top}\cdot {\bf b}} &=& \left(0,-2,1\right) \left( \begin{array}{c} 3\\ 2\\ 4 \end{array} \right)\\ &=& 0\cdot 3 + (-2)\cdot 2 + 1 \cdot 4 = -4 + 4 = 0 \end{eqnarray*}

となるからである.

0\le \theta \le \piの下で,交角が\theta = \pi/2 となるとき,2つのベクトル{\bf a}{\bf b}は直交する.すなわち直交条件は

(43)   \begin{equation*} \theta = \pi/2 \iff \cos \theta = 0 \quad (0\le \theta \le \pi) \end{equation*}

なので,式(31)と合わせて

(44)   \begin{equation*} \cos \theta = \frac{ {\bf a \cdot b}}{| {\bf a}|\;|{\bf b}|} = 0. \end{equation*}

すなわち

(45)   \begin{equation*} {\bf a \cdot b}= 0 \end{equation*}

となれば,2つのベクトル{\bf a}{\bf b}は直交する.

(例)次の2つの3次元実ベクトル

(46)   \begin{equation*} {\bf a} = \left( \begin{array}{c} 0\\ -2\\ 1 \end{array} \right), \quad {\bf b} = \left( \begin{array}{c} 3\\ 2\\ 4 \end{array} \right) \end{equation*}

は直交する.なぜなら,

(47)   \begin{eqnarray*} {\bf a}^{\top}\cdot {\bf b}} &=& \left(0,-2,1\right) \left( \begin{array}{c} 3\\ 2\\ 4 \end{array} \right)\\ &=& 0\cdot 3 + (-2)\cdot 2 + 1 \cdot 4 = -4 + 4 = 0 \end{eqnarray*}

となるからである.

内積の性質・公式

内積は次の性質を満たす.

非負性 {\bf x}^{\top}\cdot {\bf x} \ge 0

非退化性 {\bf x}^{\top}\cdot {\bf x} = 0 \Rightarrow {\bf x} = {\bf 0}

なお,内積の定義より,{\bf x} = {\bf 0} \Rightarrow {\bf x}^{\top}\cdot {\bf x} ={\bf 0}^{\top}\cdot {\bf 0} = 0なので,{\bf x}^{\top}\cdot {\bf x} = 0 \iff {\bf x} = {\bf 0}が成り立つ.

交換法則(commutative property) {\bf x}^{\top}\cdot {\bf y} = {\bf y}^{\top}\cdot {\bf x}

分配法則(distributive property) \left( {\bf x}_1+{\bf x}_2 \right)^{\top}\cdot {\bf y} = {\bf x}^{\top}_1 \cdot {\bf y} + {\bf x}^{\top}_2 \cdot {\bf y}

スカラー倍(scalar multiplication) \left(\alpha{\bf x}^{\top}\right) \cdot {\bf y} = \alpha \left( {\bf x}^{\top}\cdot {\bf y} \right)\alphaは定数.

内積とは?内積の意味とイメージ

多くの解説では,内積の意味やイメージを,ベクトル{\bf a} へのベクトル{\bf a} の射影として,幾何学的に図示することによって与えている.これは,高等学校におけるベクトルの導入が,平面上の有向線分として,幾何学的なイメージとともに行われることと関係がある.

他方,多次元のベクトルや行列を,表計算(spreadsheet)やデータベース上の表(table)のような「〈値の組〉の代数」としてイメージすることも,科学や工学においてビッグデータや人工知能などのデータ駆動型(data-driven)アプローチが重要になっている今日,重要なことであろう.

本稿では,定義(2-1)および定義(2-2)に関係する,代数的なイメージを例示する.

例.品物の合計金額(単価と個数の積和)

たまご(egg),キャベツ(cabbage),人参(carrot)のデータを

(48)   \begin{equation*} \left( \begin{array}{c} \text{egg} \\ \text{cabbage} \\ \text{carrot} \\ \end{array} \right) \end{equation*}

の順に書き並べる.それぞれの単価と個数が次の表

のように与えられたとすると,単価データと個数データがそれぞれベクトル{\bf x}{\bf y}

(49)   \begin{equation*} {\bf x}= \left( \begin{array}{l} \text{the price of an egg} \\ \text{the price of a cabbage} \\ \text{the price of a carrot} \end{array} \right) = \left( \begin{array}{r} 30 \\ 200 \\ 40 \end{array} \right) \end{equation*}

(50)   \begin{equation*} {\bf y}= \left( \begin{array}{l} \text{the number of eggs} \\ \text{the number of cabbages} \\ \text{the number of carrots} \end{array} \right) = \left( \begin{array}{r} 10 \\ 3 \\ 10 \end{array} \right) \end{equation*}

のように表すことができる.このとき,それらの内積は

(51)   \begin{eqnarray*} {\bf x}^{\top}\cdot{\bf y} &=& \left( 30,200,40 \right) \left( \begin{array}{r} 10 \\ 3 \\ 10 \end{array} \right)\\ &=&30\cdot 10 + 200\cdot 3 + 40 \cdot 10 = 1300 \end{eqnarray*}

であり,品物の合計金額に相当する.

「内積」の英語は?

内積(ないせき,英: inner product)

内積は英語でinner productという.

内積はドット積(dot product)あるいはスカラー積(scalar product)と呼ばれることもある.

内積空間(inner product space)

内積が定義されているベクトル空間(vector space)を,計量ベクトル空間(metric vector space)または内積空間(inner product space)という.

行列の積(「行列の内積」は誤記)

行列の積(product)は,以下のように定義される.左の行列の行と,右の行列の列に対して,ベクトルの内積と同じ操作を行うが,「行列の内積」とは呼ばない.

n\times m行列Am\times l行列Bの積ABは,次のようなn\times l行列となる.

(52)   \begin{equation*} AB= \left( \begin{array}{cccccc} a_{11} & a_{12} &...&a_{1j}&...&a_{1m}\\ a_{21} & a_{22} &...&a_{2j}&...&a_{2m}\\ \vdots & \vdots & &\vdots& &\vdots\\ a_{i1} & a_{i2} &...&a_{ij}&...&a_{im}\\ \vdots & \vdots & &\vdots& &\vdots\\ a_{n1} & a_{n2} &...&a_{nj}&...&a_{nm}\\ \end{array} \right) \left( \begin{array}{cccccc} b_{11} & b_{12} &...&b_{1k}&...&b_{1l}\\ b_{21} & b_{22} &...&b_{2k}&...&b_{2l}\\ \vdots & \vdots & &\vdots& &\vdots\\ b_{j1} & b_{j2} &...&a_{jk}&...&b_{jl}\\ \vdots & \vdots & &\vdots& &\vdots\\ b_{m1} & b_{m2} &...&b_{mk}&...&b_{ml}\\ \end{array} \right) \end{equation*}

(53)   \begin{equation*} = \left( \begin{array}{cccccc} \sum_{j=1}^{m} a_{1j}b_{j1} & \sum_{j=1}^{m} a_{1j}b_{j2} &...&\sum_{j=1}^{m} a_{1j}b_{jk}&...&\sum_{j=1}^{m} a_{1j}b_{jl}\\ \sum_{j=1}^{m} a_{2j}b_{j1} & \sum_{j=1}^{m} a_{2j}b_{j2} &...&\sum_{j=1}^{m} a_{2j}b_{jk}&...&\sum_{j=1}^{m} a_{2j}b_{jl}\\ \vdots & \vdots & &\vdots& &\vdots\\ \sum_{j=1}^{m} a_{ij}b_{j1} & \sum_{j=1}^{m} a_{ij}b_{j2} &...&\sum_{j=1}^{m} a_{ij}b_{jk}&...&\sum_{j=1}^{m} a_{ij}b_{jl}\\ \vdots & \vdots & &\vdots& &\vdots\\ \sum_{j=1}^{m} a_{nj}b_{j1} & \sum_{j=1}^{m} a_{nj}b_{j2} &...&\sum_{j=1}^{m} a_{nj}b_{jk}&...&\sum_{j=1}^{m} a_{nj}b_{jl}\\ \end{array} \right) \end{equation*}

n\times m行列Am\times l行列Bの成分a_{ij}b_{jk}に対して,n\times l行列ABの要素c_{ik}

(54)   \begin{equation*} c_{ik} := \sum_{j=1}^{m} a_{ij}b_{jk} \end{equation*}

となる.

また,一般に,行列ではAB \not= BAであることに注意せよ.n\not=lであればBAは計算することもできない.

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