確率変数X1,X2が従う確率密度関数f1,f2が与えられたとき,その和Y:=X1+X2が従う確率密度関数fYを計算する一般的な方法を示します.
またこれにより,正規分布・ガンマ分布・指数分布などの和の分布を計算する際,分布ごとに畳み込みの積分範囲が異なる理由が明らかになります.
【スマホでの数式表示について】
確率変数の和の分布
連続確率変数の和の分布
を,結合確率密度関数(joint probability density function) に従う連続確率変数とし,の台(support)を
(1)
(2)
(3)
(4)
で計算される.
特に,確率変数 が確率論的に独立である(stochastically independent)とき,すなわち
(5)
が成り立つとき,式(4)の計算をさらに進めることができ, は と の畳み込み(convolution)
(6)
により得られる.
関連ページ
再生性を持つ分布
- 和の分布を計算する(正規確率変数の和 X1+X2 = 正規確率変数 Y)
- 和の分布を計算する(ポアソン確率変数の和 X1+X2 = ポアソン確率変数 Y)
- 和の分布を計算する(ガンマ確率変数の和 X1+X2 = ガンマ確率変数 Y)
- 和の分布を計算する(アーラン確率変数の和 X1+X2 = アーラン確率変数 Y)
再生性を持たない分布
和の分布の計算のための準備
確率密度関数と累積分布関数
連続確率変数の確率密度関数は,その累積分布関数
(7)
(8)
と表すことができる.
また,式(8)の逆演算として,連続確率変数 の確率分布 および 累積分布関数 は,確率密度関数 の積分で
(9)
のように書くことができる.
※ なお,一般に,公理的確率論においては確率測度の定義から始まるが,個別の分布を具体的な関数として与える際には,確率密度関数と累積分布関数のどちらで分布を定義し,どちらを二次的に導出するのかについて,原理的な優先順位が定まっているわけではない.
集合を用いた積分領域の表示
和の分布を計算する際に必要となる,集合を用いた積分領域の表示を導入する.
式(9)について,積分区間 を, の部分集合 として内包的に表示すると,
(10)
などと書ける.(10)を用いて積分範囲を示すことにすると,式(9)は
(11)
のように書くことができる.このような,集合を用いた積分領域の表示は,積分範囲に不連続点があるなど,「数直線上での単純な積分」でない場合に便利である.
和の分布は結合確率分布に関する制約条件付き積分で計算する
和 を考える前の,2つの確率変数 に関する結合確率分布(joint probability distribution) は,
(12)
である.
(13)
である.右辺 は「ある値を与えた時,確率変数 の任意の実現値の組 に対して,が成り立つ確率」を意味する.
の具体的な関数形は,確率変数 の結合確率分布(12)の積分範囲を,条件 で制約することにより計算できる.
すなわち,和の分布 は,確率変数 に関する確率密度関数 の積分領域(3)について積分したものである.
和の分布の累積関数
和の分布 は,確率密度関数 を積分領域(3)で積分したものであるから,
(14)
のように書くことができる.
和の分布の確率密度関数
和の分布の確率密度関数 は,累積分布関数(14) の微分
(15)
により得られる.
確率変数の独立性の仮定
確率変数 が確率論的に独立であること(すなわち 式(5) )
を仮定すると,式(15)は
(16)
となる.このとき, の累積分布関を とし, の台 を
(17)
とすると,累積分布関数の性質より,
(18)
である.
和の分布の計算:独立性の仮定と積分領域の場合分け
確率変数 が確率論的に独立であることを仮定した上で,積分領域 の場合分けを行い,式(16)を計算しよう.
以下において,積分領域 を4つのケースに場合分けして計算を行うが,いずれの場合も
(19)
なる畳み込み積分(すなわち式(6))に帰着する.
積分領域の場合分け
積分領域(3)は,の台を
とし,与えられたに対して定まるの部分集合 を
とした際の共通部分
であった.模式的には下図のように表せる:
(20)
(21)
(22)
であるが,積分(14)を実際に計算する際には, の値の大小により,次の4つのケースに場合分けされる.
和の分布の計算:畳み込み積分の導出
上記 (i)~(iv) の場合分けに従って,実際に式 (16) の微分と積分を実行し,確率密度関数を計算する.
いずれの場合も,同一の畳み込み積分 (6) に帰着する.
積分範囲(i)の場合
式(16) の積分範囲 を
(23)
とする.これは下図の水色部分にあたる.
(24)
となる.さて, による微分を行いたいが,積分区間が を含むため,微分の定義
(25)
(26)
積分範囲(23)より,
(27)
(28)
積分範囲(ii)の場合
式(16) の積分範囲 を
(29)
とする.これは下図の水色部分にあたる.
(30)
となる.積分範囲(29)より,
(31)
(32)
積分範囲(iii)の場合
式(16) の積分範囲 を
(33)
とする.これは下図の水色部分(A)と黄緑色部分(B)にあたる.
式(16) を積分範囲(33)で計算するとき,(A),(B)の積分領域をそれぞれ として,
(34)
となる.積分範囲に注意して,(A),(B) をそれぞれ計算すると,
(35)
(36)
となる.さて,(B)については,積分範囲の場合分け(i)の際と同様に, による微分を,微分の定義に従って計算する.すなわち,
(37)
(38)
(39)
を得る.さて,積分範囲(33)より,
(40)
(41)
積分範囲(iv)の場合
式(16) の積分範囲 を
(42)
とする.これは下図の水色部分(A)と黄緑色部分(B)にあたる.
式(16) を積分範囲(33)で計算するとき,(A),(B)の積分領域をそれぞれ として,
(43)
となる.積分範囲に注意して (A),(B) をそれぞれ計算する.
(A) については,積分範囲の場合分け(iii)における式(44)と同様の計算により,
(44)
を得る.
(B)についても,式(26)および式(37)と同様に, による微分を,微分の定義に従って計算することに注意して,
(45)
(46)
(47)
を得る.さて,積分範囲(33)より,
(48)
(49)
確率変数の和と確率分布の再生性
を,それぞれ分布関数に従う確率変数であるとする.このの和が従う分布関数も,元の確率分布と同じ関数族に含まれるとき,この分布は再生性(reproducing property)を持つ,という.
例えば,2つの確率変数がそれぞれ,なる正規分布(normal distribution)に従うとき,2つの確率変数の和はなる正規分布に従う.この事実を指して,「正規分布は再生性を持つ」という.
逆に,2つの確率変数の和が計算できるとしても,その分布が再生性を持たない場合もある.例えば,指数分布に従う2つの確率変数の和は,なるアーラン分布に従う.すなわち,和の分布が元の確率変数が従う分布とは異なるため,指数分布は再生性を持たない,といえる.
関連ページ:
正規分布(ガウス分布)の再生性の証明 は こちら
著者様
記事をいつも楽しく拝見しています、makotoと申します。
確率変数の和の分布の証明の記事の(20)の3つ目のイコールのところで、偏微分が積分の中に入っていますが、ここは自明でしょうか?
積分区間がyに依存していなければルベーグの収束定理からそのようになるかと思いますが、この例では積分区間がyに依存しているので、自明ではない気がします。
宜しくお願いします。
本ページを全面的に改稿し,積分区間のy依存性に関しても明確に計算が追えるようにしました.
motoko様
コメントありがとうございます.
ご指摘の通りで,x1の積分とyの偏微分の交換は,積分区間がyに依存するため,一般にはできませんね.
微分の定義式に戻って書き下すとわかる通り,区間の端点が悪さをしなければよいので,「普通の」CDFを対象とする限りにおいて,これで和の分布を計算してしまいますが,
本当はあらかじめ非積分関数に適切な制約条件を付すべきですね.
難しすぎてわからない
確かに,けっこうむずかしいですよね・・・!(^^;)